ネタバレありの映画批評 ムービー・インプレッションズ

ソラニン

2010年 日本 126分

監督:三木孝浩
脚本:高橋泉
撮影:近藤龍人
出演:宮崎あおい、高良健吾、桐谷健太、近藤洋一、伊藤 歩

 

バンド加入のきっかけは…。数秒のシーンに物申す

浅野いにおの人気コミックを実写化。

作中の曲はアジアン・カンフー・ジェネレーションが作曲。劇中に描かれる主人公たちのバンド「ロッチ」のベースにはサンボマスターのベーシスト・近藤洋一が抜擢されるなど、公開前から話題性十分だった今作。

良作漫画が原作、芽衣子役の宮崎あおい、種田役の高良健吾など原作のイメージを壊さない配役や、ビリー役・桐谷健太の原作から多少逸脱しつつもアクセントを加える迫力ある演技、ミュージックビデオでキャリアを積んだ三木監督の画作りなど、スペックから穴らしい穴は見つからない。そんな期待通りの安定感を持って物語は進んでいく。

多少間延びするシーンはあるものの、それは邦画にありがちな行間をとる間の取り方とも言え、落ち着いた風情で私は映画を見つめていた。

違和感を感じたのは終盤のあるシーンをみたときだ。

恋人であった種田が死んだ後、ヴォーカルだった彼の意志を継ぐように、「ロッチ」加入に名乗りを挙げる芽衣子。メンバーは戸惑いつつもそれを受け入れ、種田が残した楽曲「ソラニン」の練習に明け暮れる。

あるバンドの前座が決まり一層練習に熱が入る最中、スタジオに向かう芽衣子に幻影が見える。街中を行き交う人の群れの中に、バンドを始める前、種田を失う前、退屈にOLをしていた自分自身の姿を見たのだ。

すれ違い、思わず振り返る現在の芽衣子。しかし過去の自分は人ごみに紛れてしまい、思い直してすぐに踵を返し再びスタジオへと歩いていく。

このシーンは原作にも存在する。いやそれはシーンとは言えず、一コマだけのコラージュ的な扱いだ。以前の芽衣子と今の芽衣子がすれ違う仮想の絵を一コマ入れることで、少しの時間で環境が大きく変わってしまった芽衣子の状況を浮き彫りにしている。

対して映画は、映画内の現実に実際にあったひとつの重要なシーンとして描かれている。これは観客に対して、環境が変わった「状況」を伝えるとともに、過去の芽衣子から現在の芽衣子へ「成長」を表したような印象を受ける。

恋人が死んだことは人生が動き出す大きなきっかけであり、結果的に残されたものの成長へと繋がるのかもしれない。しかし私は、そのことをこの「ソラニン」という映画の中で浮き彫りにする必要性を感じない。

種田を失ったことで芽衣子が得たものは「喪失」であり、それを埋められたのは種田自身が凝縮されている「バンド」であった。順を追うように流れていく彼らの状況の中、「誰かの死によって人が成長する」といういわば説教臭い要素は「ソラニン」という物語を観賞する上では余計なものだと思った。

監督がどのようなメッセージを込めたのか不明だが、数秒のシーンで私はこの映画が台無しになったと感じたのだ。(55点)

 

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