ネタバレありの映画批評 ムービー・インプレッションズ

ユージュアル・サスペクツ

1995年 アメリカ 106分

監督:ブライアン・シンガー
出演:ガブリエル・バーン、ケヴィン・スペイシー

 

二重に観客を騙す、良質なサスペンス

どうもこうも暇な休日があったとして、「何かDVDでも観ようかな、でもわざわざレンタルしてくるんだから外したくないしな」なんて思う日があって、もし「ユージュアル・サスペクツ」をまだ観たことがないとしたら、それは幸運なことだ。これを借りておけばまず間違いはないでしょう。

ミステリー映画の王道として若干時系列がシャッフルされている。主人公が誰なのか、語り部が誰なのか、主となる流れが最初の20分ぐらいは掴みにくかもしれない。

しかしそこを過ぎれば、後はあっという間に物語に引き込まれて充実した時間を過ごすことができる。「ユージュアル・サスペクツ」はそんなとても良質なミステリーである。

カリフォルニアの港町で死者27人を出す爆発事件が発生した。コカイン取引をめぐる組織同士の抗争と見られ、生き残った2人のうち無傷のロジャー・ヴァーバル・キントが関税特別捜査官のクイヤン刑事に尋問をかけられる。
物語は、このヴァーバルが刑事に語る内容を映像にすることで進んでいく。

さかのぼること6週間前、銃を大量に積んだトラック強奪の容疑で連行されたヴァーバルを含む5人の男。
釈放された5人が徒党を組んで成功する最初の山。
気をよくした5人がロサンゼルスで起こし失敗に終わる二つ目の山。
そして伝説的ギャング、カイザー・ソゼから依頼される三つ目の山。
この三つ目の山こそが、現在問題となっている爆破事件となる。

観客はヴァーバルが語る経緯によって、三つ目の山を受けざるを得なくなった状況を理解し、さらにその興味はコバヤシという代理人を立てて一向に姿を見せないカイザー・ソゼの正体に移っていく。

ミステリー映画を見慣れている人であれば、犯人探しのパターンには一つの類型があることに気づいているだろう。
犯人が誰であるか終盤まで明かされない場合は、「絶対にあり得ないと思っていた人物が犯人である」というフラグが立つ。
この映画において、一旦は尋問している刑事が自信満々でミスリードを行うが、もちろん謎の人物とされているカイザー・ソゼの正体は、刑事の目の前で自供を行っているヴァーバルにほかならない。

だいたいが気弱で足を引きずっているというキャラ設定自体が、「私がカイザー・ソゼだ」とアピールしているようなものだ。ラストに明かされた時も驚きはない。
種明かしがこれだけであれば、それほど良質な映画とは思わない。せいぜいが70点ぐらいのものである。

私がこの映画をおもしろいと思い87点という高得点をつけたのは、刑事が「カイザー・ソゼはヴァーバルだ!」と気づいた理由にある。

刑事はヴァーバルを解放した後、部屋のボードに貼られた資料やメモ、そしてカップに書かれているメーカー名に目をやり愕然とする。
そこにはつい先程までヴァーバルが語っていた人物たちの名前が書かれていたのだ。
つまりヴァーバルは部屋の中で目についた単語を繋ぎあわせて、でたらめの話を刑事に話していたのだ。この2時間弱という映画で語られているほとんどすべては、ヴァーバルのでたらめ話だったのだ。

映画というのは作り話だ。ノンフィクションであっても、脚本を作り役者が演じている時点で作り手のバイアスが掛かった作り話である。
私たちはもちろんそれを踏まえた上で観るのだが、作り話とはいえ映画内では実際に起こっていると思って観ていたすべてが、実はでたらめ話だったというオチは、「してやられた!」というある種すがすがしい感情を覚える。

「ユージュアル・サスペクツ」は本編がシリアスな表情の顔のアップが多く、いかにもミステリー映画らしく緊張感を持って進む。観ている時はそれが気になっていたのだが、それも「作り話だった」というオチに向けての前振りだったのか、と思うとやはり高得点をつけずにはいられないのである。(87点)

 

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