ネタバレありの映画批評 ムービー・インプレッションズ

月とキャベツ

1996年 日本 99分

監督:篠原哲雄
出演:山崎まさよし、真田麻垂美、鶴見辰吾、ダンカン

 

歌と映像、演技が融合。大きな余韻を生み出す

開始5分で見る気が失せた。
山崎まさよしの演技が、あ、あま、あま、あ、あまりにも酷すぎて。

しかし、オブラートを何枚か被せたようなぼんやりとした質感の映像や、夏の夕暮れ、日が落ちた後のまだ薄明かりの中にいるような色と光の雰囲気が自分の好みで止めずに最後まで観ることにした。

最後まで山崎まさよしの演技力は一向に向上しないのだが(何しろこの作品は、彼の俳優としてのデビュー作なのだ)、これはもう好みの問題かもしれない。

私はこの映画がとてもとても好きだ。
おそらく死ぬまでに何度も繰り返し観るだろう。

スランプ中のプロミュージシャン、山崎まさよし演じる主人公の花火。彼の家に突然押し掛ける、花火のつくる曲が大好きだというファンのヒバナ。花火は鬱陶しく思ってヒバナを邪険に扱い続ける。その結果、物語の中盤、ヒバナは寂しそうに彼の元を立ち去っていく。

思い直して、ヒバナをボロボロの自転車で追い掛ける花火。恋愛映画で頻繁に用いられる「天の邪鬼」と「追いかけっこ」の構造が繰り広げられ、ヒバナと出会ったことで変化していく花火の心情がわかりやすく表現される。

つまりヒバナと出会い、彼女との生活をきっかけに花火はスランプから脱出して曲作りを始める、その曲こそがミュージシャン山崎まさよしの名曲「One more time,One more chance」なんだな、とここまでは容易に先が読める。たとえその予定調和通りに終わったとしても、色づかいや小道具に気を配った映像と相まって、十分に良作となりえただろう。しかし…。

終盤、物語の骨格となる「ある真実」が判明する。
「いつでも捜しているよ、どっかに君の姿を」と歌う花火とそれを見つめるヒバナ。歌詞と映像、花火とヒバナという名前、そしておよそ役者らしくない山崎の演技さえもが一つの作品の中に混じり合い、重なり合う。大きな余韻となって胸に残るのである。(78点)

 

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