ネタバレありの映画批評 ムービー・インプレッションズ

無能の人

1991年 日本 107分

監督:竹中直人
出演:竹中直人、風吹ジュン、三東康太郎、山口美也子、マルセ太郎、神戸 浩

 

個性派俳優が選択した原作の妙

元々はコメディアンとしてデビューした竹中直人。

古くからの彼のファンであれば、「笑いながら怒る男」や「ブルース・リーの物真似」などの半ば狂人じみた彼の芸風をご存知であろう。

その風貌やキャラクターから個性派俳優としてもキャリアを着実に積んでいた’80年代を経て、’91年に映画監督としてのデビューを果たした。

多摩美術大学在学中に8ミリ映画を作り、また鑑賞者としてもかなりの映画マニアとして知られる竹中直人がメガホンを取るということで業界内外から注目を集めた初作品は、つげ義春の漫画を実写化した『無能の人』であった。

竹中直人の性格はテレビやコラムなどを通して推測するしかないが、私はこの選択を実に彼らしいと思った。

娯楽としてよりもむしろ芸術性・作家性の強い作品が並び一部の読者から熱狂的に支持された『月刊漫画ガロ』。その看板作家だったつげ義春が『COMICばく』に連作の読切短編として発表し、後に彼の代表作ともなった『無能の人』は、おちぶれた漫画家の主人公が数々の商売に手をつけるがことごとく失敗、元手が掛からないからと川原で拾った石を芸術と称し売り始めるというなんともいえない悲しい物語である。

極貧なのにプライドが高く、どこにも行きようがないが、それでも生きていかなくてはならない。そして行き着いた先が「川原の石売り」。

悲しくとも人間という生き物の面倒くささを朴訥に描いたこの名作を、竹中は原作のまま忠実に描いたという。

美術大学を卒業後、色物扱いされながらテレビの世界で生きる当時の竹中。芸術と生活の間を漂いながら日々を過ごす自分に、『無能の人』と同じものを感じたのか。

かくして自身が主人公をになった初監督作は、原作の雰囲気と竹中直人のエッセンスが入った佳作として完成した。(82点)

 

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