ネタバレありの映画批評 ムービー・インプレッションズ

燃えよドラゴン

1973年 アメリカ・香港 103分

監督:ロバート・クローズ
出演:ブルース・リー、ジョン・サクソン、アーナ・カプリ

 

スッキリしないブルース・リーのカンフー

香港の2大カンフースターとして、たびたび比べられるブルース・リーとジャッキー・チェン。

それまでジャッキーの映画ばかり見ていた私は、『燃えよドラゴン』を初めて観た時に、この二人を比べるとは何と愚かなことだろうと思った。同じカンフーとはいえ、表現しようとしているもの、その方向性があまりにも違いすぎるのだ。

わかりやすくいえば、ジャッキーは小説でいうところの直木賞、ブルース・リーは芥川賞だ。表現手段はカンフーで同じこそあれ、ジャッキー・チェンが作る映像はわかりやすいエンターテインメント性にあふれている。
時計台からまっ逆さまに落ちたりデパートのフロアで見事な立ち回りを見せて雑魚キャラを叩きのめしたり、電飾の火花を飛ばしながら十数メートルのポールを落下したりする。そんな見た目に派手な映像を見て多くの人は爽快な、スカッとした気持ちになるのではないだろうか。

かたやブルース・リーの『燃えよドラゴン』である。

殺された妹への復讐であったり、麻薬組織に立ち向かう対巨悪の物語であったりジャッキーと同じようなモチーフを扱っているが、そのアクションシーンにエンターテインメント性はあまり感じられない。

終盤、地下の麻薬工場にて数多くの敵と戦い、なぎ倒していくブルース・リーだが、そのカメラアングルはアクション映画でありながら独特だ。主人公の見せ場である敵にヒットしているはずのブルース・リーの攻撃は、柱やコンテナが影となって鮮明に見えないのだ。

打撃を加え、敵が倒れる度に目を見開いて宙を睨むブルース・リーの表情。それは戦闘中の危機迫るものでありながら、なぜかしらひどく悲しげでもある。「この男は人を殴るのが好きではないのではないか?」そんな考えが鑑賞している最中に脳裏をよぎる。

カンフー映画でありながら、見ている私はスカッとすることなどとてもできず、見終わった後にはスッキリしない何かが残った。

おそらく、そのスッキリしない何かこそが、ブルース・リーがカンフーを通して表現したかった哲学であり美意識なのだろう。(86点)

 

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